ファンダメンタル分析:収益性分析、EPSについて〜アマゾンとアリババを例に〜

 前回の記事ではファンダメンタル分析の概要について見ていきました。この記事では、ファンダメンタル分析の4つの視点の1つである収益性について分析するための指標を紹介します。

1株当たり純利益(EPS)と自己資本利益率(ROE)の関係

 株式を選定するときに注目したい指標に、1株当たり純利益、Earnings Per Share: EPSがあります。当期純利益を株数で割ることで計算できます。要はどれだけその株の企業が儲けているかを示します。

 このEPSを使って株価を分解すると、よく目にする指標、Price Earnings ratio: PERが出てきます。

PERは当期純利益に対して株価が何倍(何年分)であるかを表し、株価の割安性を判断する材料とも説明されます。株価はPERとEPSの積であることは非常に重要です。PERは市場の評価の結果でありますから、経営者としては株価を上昇させるためにはEPSを向上させなければならないのです。

では、優れた株式(企業)を探すのにはEPSに注目すればいいということになりますが、その本質を理解するためには、実はさらに深堀りする必要があります。

 ところでもう1つ、よく四季報や経済記事に載っているROEというワードがありますが、その意味するところは、自己資本(主に株式が拠出した資本とその他の包括利益累計額の合計)に対する当期純利益の割合:Rate of Return on Equityになります。これは、株主の出したお金を使ってどれだけ利益を上げられているかを示します。

EPSとROEの関係は、EPSをさらに分解することで表すことができます。

 BPSとは、Book Per Shareの略語で、1株当たり純資産です。EPSを向上させるためにはBPSかROEを高めればいいのです。

ROEを高める方法:ROAと財務レバレッジ

 では、良質な株式を探すためにEPSとROEを見ておけさえばいいのかというと、そうではありません。実はROEは「テコ入れ」をすることができます。先ほどROEの式をさらに分解すると、

ROA(総資産に対する当期純利益の割合)と財務レバレッジ=総資産が”自己資本の何倍か”という構成要素が見えてきます(なお、財務レバレッジは自己資本比率の逆数です)。後者の財務レバレッジは、数値が大きいほど負債に頼っていることを意味します。もし資金繰りが悪化した場合にはダメージが大きいということです。

例:アマゾンとアリババ

 ここでは米国を代表するeコマースのアマゾンと中国を代表するeコマース大手のアリババのデータを見てみます。マネックス証券の銘柄スカウターから、各指標を見ることができます。

アマゾンとアリババの比較表、マネックス証券の銘柄スカウターから作成

上記データからEPSを取り出してみます。上述した式から計算すると、

EPS(アマゾン) = 株価/PER=3074.96/73.5 = 41.87

EPS(アリババ)= 株価価/PER=239.79/27.2 =8.81

1株あたりで見ると、アマゾンはアリババの4.75倍利益を上げていることになります。

次に、EPSの構造を見ていきます。EPSはBPSとROEの積でした。まず、ROEを見ると、アマゾンがアリババよりも高い値を示しますが、ROEをさらにROAと財務レバレッジに分けてみます。

財務レバレッジ(アマゾン)=1/自己資本比率=1/0.291=3.44

財務レバレッジ(アリババ)=1/自己資本比率=1/0.571=1.75

 アマゾンのROAは7.8%とアリババ10.8より3%ポイント低いのですが、上記の財務レバレッジによりROEを高めていることがわかります。

一方でBPSは下記のようになります。アマゾンはアリババと比較して1株当たりで約3.3倍の純資産を持ちます。

BPS(アマゾン)= EPS/ROE = 41.87/0.274 = 152.8

BPS(アリババ)= EPS/ROE = 8.81/0.189 = 46.6

まとめると、アマゾンがアリババをしのぐEPSとなっているのは以下の理由によります。

  • 豊富な一株あたり純資産
  • さらに財務レバレッジにより自己資本利益率(ROE)を高くする

この記事ではROAには触れませんでしたが、実はこれもさらに分解することができます。次回以降書いていきます。