リーマンショック直後の決算分析 なぜファンダメンタル分析を重視するのか?

 前回の記事では、株式の二大分析手法であるファンダメンタル分析とテクニカル分析について概要を述べました。本記事では、harikichiがいかにして企業のファンダメンタル分析を重視するに至ったかをお話しします。harikichiのはファンダメンタル分析に以下の考えを持っています。

ファンダメンタル分析は、企業の健康状態を調べる上で必要。四半期の決算は、定期健康診断に例えられる。

1.ファンダメンタル分析との出会い

 私が最初にファンダメンタル分析に触れたのは、大学時代の一般教養の会計に関する授業でした。当時、大学生になったばかりで、企業の財務状況や会計に関する知識は全くありませんでした。

 あるとき、企業の財務状況を調べ、レポートにしてまとめよ、という課題が出されました。私は工学部に在籍していましたので、就活も見据えて電機メーカーを題材にしようと考えました。そのときに調査対象としたのは、以下の三社になります。

  • 日立製作所 (6501) :日本を代表する総合電機メーカー、時価総額1位。
  • 東芝 (6502):日立に次ぐ大手総合電機であったが、2015年不正会計問題が発生し、各事業の売却を迫られた。
  • 三菱電機 (6503):1921年に三菱造船よりスピンアウトした総合電機。そのルーツから関西に拠点を多く構える。

次節で、当時を振り返りつつ、この三社についてファンダメンタルを分析してみます。

2.三社のファンダメンタル比較

 当時のレポートを再現するために平成21年3月期の有価証券報告書を調べました。ちょうど、リーマンショックの直後の決算になります。(注:東芝の有価証券報告書は、不正会計が発覚前のものであり、修正されていません。)ここでは、有価証券報告書の最初に出てくる、連結経営指標を比較します。以下のようになります。

各連結経営指標日立製作所(6501)東芝(6502)三菱電機(6503)
売上高(百万円)10,000,3696,654,5183,665,119
当期純損益(百万円)-787,337-343,55912,167
純資産額(百万円)1,049,951447,346849,476
総資産額(百万円)9,403,7095,453,2253,334,123
自己資本比率 (%)11.28.225.5
自己資本利益率(ROE)(%)N/AN/A1.3
営業キャッシュフロー (百万円)558,947-16,011181,139
投資キャッシュフロー (百万円)-550,008-335,308214,939
財務キャッシュフロー (百万円)284,388478,45284,893
現金及び現金等価物の期末残高(百万円)807,926343,793358,616
平成21年度の各社有価証券報告書よりharikichi作成。総合電機メーカー各社の比較。

 まず、当期純利益を見ていきます。この時期は前年の2008年に米国発のサブプライムローンの崩壊によるリーマンショックがあり、日本だけでなく世界経済に深刻な影響が出ました。分析対象の三社の中では唯一、三菱電機(6503)のみ、かろうじて利益を出せています。また、日立製作所(6501)の7800億円超の巨額の赤字が目立ちますね。当時のニュースでも大きく取り上げられたのを覚えています。

 自己資本比率ですが、当時は高い順に三菱電機:25.5%、日立製作所:11.2%と東芝:8.6%となっています。三菱電機は安定経営と称されることが多いのですが、当時の指標からもそのことが伺えます。逆に、東芝は10%を切っています。

 次にキャッシュフローですが、三社とも違った様相をしています。実は、三種のキャッシュフローから企業の状況を簡単に読み取ることができますので、ここで紹介します。次の図のように分類できます。

キャッシュフローパターンA
(三菱電機)
パターンB
(日立製作所)
パターンC
(東芝)
営業キャッシュフロー+
投資キャッシュフロー+
財務キャッシュフロー+
内容すべての活動からCF(キャッシュフロー)が創造されているため、CFが増加。営業活動から生み出されたCFと調達したCF(資金)を投資に回している企業。営業CFのマイナスを資産売却あるいは資金調達によって賄っている企業。創業まもない若い企業(成長期にある企業)に見られることが多い。
企業の状況・姿勢CF過剰企業積極投資企業成長企業
キャッシュフローと企業の状況を示した表。新・企業価値評価 (伊藤邦雄 著、日本経済新聞社)より一部抜粋。

上記の表からは、各社の姿勢が一眼でわかり、定性的な評価ができます。

三菱電機は流石に安定経営と言われるだけあり、キャッシュフローを多く確保しています。

日立製作所は巨額の赤字でしたが、営業キャッシュフローは+となっています。また、現金及び現金等価物の期末残高も多く確保してあります。

最後に東芝ですが、成長企業に見られるキャッシュフローパターンになっており、資金繰りに苦慮していることが伺えます。さらに現金及び現金等価物の期末残高が、三菱電機と同程度となっており、売上高との比率で考えれば相対的に少ないことがわかります。

日立の巨額の赤字7800億円に目を奪われがちですが、実は東芝が財務的に危ういことがわかります。くどいようですが、この報告書の数値は不正会計が明るみになる前です。

3.まとめ

 以上のように、企業のファンダメンタルズを調べる際には、利益だけでなくキャッシュフローなどの数値も重要であることがわかります。これらの指標を調べて評価するのは時間がかかるものの、企業を理解するために有益です。

 今回は、ある年度のデータのみを切り取って簡易に実施しました。2015年のまでの東芝がどうだったのか気になります。またの機会に時系列を追って分析してみたいと思います。